採択企業がこっそり教える創業助成金の重要なポイント

弊社サイトへの流入キーワードでトップ10に入っているのが「創業助成事業 採択」です。2018年に投稿したこのニュースが検索にヒットしているようです。

世の中には補助金や助成金の支援をしてくれる専門家の方がたくさんいてWebページも大量にある中で敢えて弊社の一ニュースを見て頂ける理由は、おそらく生の声を聞きたいからではないでしょうか。

そこで、弊社が採択のために大切にしている重要なポイントをお伝えしようと思います。ちなみに弊社は有料コンサルに一切頼んでおらず独自で申請し、多数が採択にいたっております。

一般的な注意事項は専門家のWebページで

その前に一点だけ注意頂きたいのは、世の中には補助金や助成金の支援をしてくれる専門家の方がたくさんいらっしゃるということです。当然ながら専門家のご意見やご指導は的確である場合がほとんどです。なので、まずは専門家のWebページをご覧になってください。まず抑えるべき点、例えば、行政が補助金事業を遂行する目的を把握することが大切であるとか、審査項目から逆算して考えるとか、審査員は少ない時間で多くの申請書類を審査するのでわかりやすくするとかが、きっと書かれているでしょう。そういった前提を踏まえた上で、さて具体的にどうするか、という観点で書きたいと思います。

あるそば屋での衝撃

以下は、あるそば屋さんに貼ってあったポスターの内容です。

当店つゆは125年の伝統を誇る千葉県野田市で作られた本醸造の醤油を使っています。化学調味料、香料、着色料は使用していません。この醤油に、三石昆布、鰹の出汁を合わせた山海の絶品の味わいを追求したおいしいつゆです。そばは北海道産そば粉、野菜は切り立て新鮮野菜を使っています。(一部改変)

さぞ高級なそば屋さんに見えますよね?実はこれ、都内の庶民的な立ち喰いそば屋さんに貼ってあったポスターの内容なんです。

これを始めて見たときは衝撃的でした。ここまで書けるのか!と。なにがすごいかって、嘘や誇張なしでここまで価値を訴求できているという点です。

例えば「125年の伝統」。キッコーマン株式会社ファクトブック資料編2019年版によると、日本の醤油のシェアはキッコーマン、ヒゲタ、ヤマサ、ショウダ、マルキン、ヒガシマルの大手6社で約6割を占めています[1]。

6社が創業としている年を見ると、最も若いキッコーマンでさえも1917年と102年も続いています[2]。平均創業年は1790年。平均の創業からの年数は303年です。

(各社Webページより引用)

つまり醤油メーカーは「125年の伝統」なんてアタリマエなんです。でも「125年の伝統」と書くと、一世紀以上も続いている老舗の醤油を使っているんだ!と思わせることができます。たぶん食品業界の人にとっては当たり前でも、改めて聞くとなんだかすごそうです。

ブランドものの醤油?

千葉県野田市というように具体的な地名が出てくるとブランドもののように見えます。例えば松坂牛、関さば、大間マグロというように、産地の名前がついただけで価値が高まることがあります。「夕張メロン」と「それ以外のメロン」の卸値について2002年から2016年のデータで比較をすると、夕張メロンは他のメロンと比べ、1kg当たり平均173%の高値で取引されているとのことです[3]。

そもそも千葉県は醤油出荷量で国内シェア第1位の35.24%[4]。野田、銚子といった代表的な醤油産地を抱えています。普通に仕入れれば千葉県産の野田生まれもしくは銚子生まれになる可能性は十分にあります。

とはいえ、具体的地域名を出されればプレミア感を感じざるを得ません。

絶妙な表現

他にもファンタスティックな表現が目白押しですが、よく考えると一つ一つはそれほど貴重だったり差別化ができているわけではありません。

本醸造の醤油→現在つくられている醤油の8割は本醸造方式[5]

化学調味料、香料、着色料不使用→これ以外は使っていないとは書いていない

三石昆布→北海道で採れる昆布の種類。道南の太平洋沿いを主産地とする[6]。格を表すものではない。

北海道産そば粉→どのぐらい入っているか割合については言及していない

切り立て新鮮野菜→切ってすぐという意味。採れたてでも揚げたてでもない。

嘘や誇張は不要。自分たちの資源の強みをよく考える

このポスターは、都内一等地で極めて経済的な価格で提供しているそばにもかかわらず価値のあるものでしょう?と訴えています。一つ一つの要素はたいしたことはなくても、全体を通してにじみ出る貴重さ、希少さ、マネは難しそうであること、他の立ち食いそば屋さんには代えられない感じは、十分伝わってきます。受け手によっては、素晴らしいという印象を得るでしょう。

一見したらありふれたものであっても、立場や価格など、違う観点から見たり考えたり調べたりすればとても貴重であったり価値があったりします。自分たちの持っている資源、例えば技術、仕入れルート、材料、知識、立地、価格、時期、これらの組み合わせなどを、過小評価せずに、もう一度強みをよく考えることが重要です。このポスターは、その強みをしっかりと伝えています。

よくある事業だと思われないこと

ジェイ・バーニーという経営学者は、ライバルより優位な競争的ポジションをもたらす経営的資源について、4つの条件を示しました[7]。

  • 貴重であること
  • 希少であること
  • 模倣できないこと
  • 代替が存在しないこと

これらの条件を満たす資源を初めからもっている起業家なんてまずいません。もし持っていたらだれかがとっくそれを使って事業をやっているし、だれも持っていないのであれば何かしら持てない理由があるのです。となると、似たような経営的資源で始める事業というのは、当然どこかで見たことある感がするようになるわけです。でも、たしかに既視感はあるけど、本当によくある事業でしょうか?その地域ではどうですか?その業界では?その時期や時間帯では?その価格では?・・・なにかしらの差別化要因はあるはずです。そしてその要因を強みにするのです。

弊社が助成金の応募で大切にしている重要なポイントは、この点です。

出典

[1]キッコーマン株式会社ファクトブック資料編2019年版, キッコーマン株式会社 (2019年).

[2]各社ホームページより.

[3]地域の経済2017, 内閣府 (2017年).

[4]Discover Chiba千葉が誇るが日本一, No.15, 京葉銀行 (2013年).

[5]しょうゆのすべて, キッコーマン株式会社

[6]こんぶの種類, 北海道水産物検査協会

[7]ヘンリー・ミツンバーグ:戦略サファリ第2版, 東洋経済新報社(2013年).

(2019/10/19追記)独自で申請している旨を追記。