ペーパーレス化を達成するために印刷機を減らすのは悪手

(前回の続き)

超ラッシュ時

2台から1台にしたら待ち時間は倍?いいえ、違います

ペーパーレス化を達成するために印刷機を減らすのは悪手です。現状でスカスカならいいんです。でも、印刷機に余裕のある会社なんてこのご時世まずないですよね。だからこそ「印刷機を減らして紙出力の機会を絞れば紙も減るだろう。だから印刷機の台数を半分にしよう、その代わり待ち時間は倍になるけど我慢してもらおう」と思われるかもしれません。

ちょっと待った!印刷機の台数を半分にしたら一人あたりの平均待ち時間は必ずしも倍にはなりません。倍どころではなく、もっと増える可能性があります!

(なお、用語は印刷機で統一していますが、複合機やプリンタと同じ意味で使用しています。)

理想的な印刷発生頻度の場合

論より証拠、シミュレーションで一人当たりの平均待ち時間を計測してみましょう。まず印刷機2台、平均到着時間5分50秒、平均印刷時間3分45秒、印刷人数50人の場合をシミュレーションしてみます。以下30秒ほどの動画をご覧ください。

一人あたりの平均待ち時間は0秒です。待ちは発生していません。

では次に、同じ条件で印刷機を1台にしてみましょう。

結果は印刷機2台のときと同じく一人あたりの平均待ち時間は0秒です。なんだ、印刷機の台数を半分にしても一人あたりの平均待ち時間は変わらないじゃないか!と思われるかもしれません。

でもちょっとまってください。2つとも等間隔に印刷が発生した場合を想定しています。こんなお行儀のよい印刷機の使い方は現実ではありえないですよね。

一人当たりの平均待ち時間は倍じゃすまない!

では、印刷発生のタイミングを等間隔でなくランダムにしてみましょう。パラメータは同じく平均到着時間5分50秒、平均印刷時間3分45秒、印刷人数50人でまず2台の場合です。ランダムは当然ながら結果がばらつくので、9回試行しました。

一人当たりの平均待ち時間は0.99秒です。たいして待ちは発生していませんね。さて問題は、同じ条件で1台にした場合です。同じく9回試行しました。

一人当たりの平均待ち時間は平均35.63秒です!2台の時と比較すると、2倍どころじゃなく約35倍です!

なお、ここでは時間そのものである「35.63秒」は問題ではありません。前提条件である平均到着時間5分50秒、平均印刷時間3分45秒はこのデモのために適当な値を選んだからです。ポイントは、そのような適当な数字でも2倍ではなく約35倍になったところです。

なぜ倍ではないのか。直感的には理解しづらいが・・・

同じ平均到着時間、平均印刷時間でも、印刷の発生状況次第で一人当たりの平均待ち時間が大きく変わります。

理由の詳しい説明は数式が必要なので他に譲るとして、次の動画を見ていただければなんとなく理解できると思います。平均到着時間5分50秒はそのままで、極端な印刷発生状況の場合です。最初は人が出てきませんが、ちょっと辛抱強く見てみてください。

この場合の一人あたりの平均待ち時間は343秒です。ダンゴ状態の場合はかなりの待ち時間が増えることが分かります。

以上のことからわかる通り、同じ平均値でも印刷発生タイミングのバラつき具合で一人あたりの平均待ち時間は大きく変わるのです。

うちの印刷機はスカスカだからだいじょうぶ?そうとは言いきれないですよ!

このシミュレーションでは平均到着時間5分50秒、平均印刷時間3分45秒という値を採用しました。単純な印刷機の平均稼働率で言えば64%となります。

「そもそもうちは印刷機の平均稼働率はそんなに高くないから、印刷機を減らしたところで、このシミュレーションほど待ち時間は増えない。」

本当にそうですか?前述のように、平均だけじゃ精度の高い計算はできませんよ。

費用を最小に抑えつつ業務に耐えられるような設備計画を検討するためには、ピーク時の稼働率の把握が大切です。身近な例で説明しましょう。2015年の関東の私鉄で最も稼働率(乗車効率)が高いのは東急で51.3%です。乗車効率は、全列車定員のうちどのくらいの乗客が乗っているかを表しています。

東急乗車効率

51.3%といったらガラガラですが、感覚的に受け入れがたい数値ですよね。毎日満員電車に揺られているわけですから。実際、2017年のピーク時における東急の混雑率は、加重平均で170%にものぼります。

東急ピーク時混雑率

平均でならすと51.3%だけど、ピーク時は170%。3.3倍に跳ね上がっています。ピーク時の数字のほうが、感覚的にもあうのではないのでしょうか。

通勤電車に限らず、オフィスの印刷機にも繁忙期がありませんか。月曜の朝、昼休み直後、月末、年度末、決算月、ごとうび、年末調整の時期・・・・混んでいる時間帯や日は必ずあるものです。平均稼働率だけみても、あまり意味がありません。ピーク時の場合を考慮しないと、実態にそぐわない計画になってしまいます。

ペーパーレス化を達成するために印刷機を減らすと、仕事にならなくなる場合がある

印刷機の台数を半分にしても、待ち時間は倍ではすみません。もっともっと増加します。そして平均ではなくピーク時を考慮しないと、繁忙期に仕事が回らなくなる可能性があります。大切な書類の印刷が間に合わない、待ち発生により仕事のスケジュールが狂う、待ちのストレスにより社員の士気低下など、深刻な悪影響が発生します。

印刷自体を減らす手段を講じることが大切

結局、出口を絞って印刷を減らそうというやり方は、業務効率の低下を招きます。前回の記事に書いた、情報漏えいのリスクが上がる、外部コンサル任せでも達成できないという点を併せると、総量規制的なやり方は悪手であることがわかります。

やはり、印刷自体を減らす具体的な手段を講じることが大切なのです。

出典