働き方改革が進まない経営学的な理由

(前回のつづき)

2019年度から働き方改革関連法が順次施行[1]されます。これは一言でいうと、残業しづらくなる、ということです。

まず残業時間の上限が定められます。

次に有給休暇が取りやすくなります。

最後に、パート・アルバイトや有期雇用社員の待遇が向上します。いわゆる同一労働・同一賃金化です。

変革が必須というのはわかってるけど・・・

低い生産性、人手不足に加え、働き方改革関連法が目白押し。このような変化を乗り越えるためには、ペーパレース化が進まない、困ったなどと悠長なことは言ってられません。3分でわかるペーパーレス化が進まない理由に書いた通り、そもそも業務改革が進まない理由は規定、制度、慣習、文化でした。これらを変えなければ、淘汰されてしまう時代がきたのです。

「いや、そんなことはわかってるけど、どこから手を付けていいかわからないし、手を付ける余裕もない。」

よくわかります。変革は言うが易し行うが難しです。

ところで、企業、団体、官公庁、自治体など、いわゆる「組織」には強い慣性が働いているという説があります[2]。慣性が作用しているということは、環境適応のために、自身を変化させる組織の能力に限界があるということを意味します。これは、組織内部及び外部環境から、組織が変化することに対して制約が課されるためです。ここまでこの記事を読んでいただいた方にとっては釈迦に説法かもしれませんが、ちょっとお付き合い頂ければと思います。

日本の組織論の名著「組織論 補訂版」から、制約が生まれる理由を、外的制約、内的制約の2つに分類してご紹介します。

組織慣性の内的制約

内的制約が生まれる理由は4つあります。

  • 埋没コスト
    変革によって、投資した設備、人材、資産が無駄になると考えるため。
  • 意思決定の限界
    経営者や管理職などの意思決定者は、変革のための情報を入手しづらいため。
  • 組織内の政治的制約
    変革のために資金や人材を投入しようとすると、利益を生んでいるなど力を持つ部署や人から抵抗を受けるため。
  • 歴史や伝統
    歴史的一貫性を持ち、伝統を守ろうとする組織の性向が、変革の障壁となるため。

組織慣性への外的制約

外的制約が生まれる理由は2つあります。

  • 法的・財務的制約
    新市場の参入障壁が高かったり、ハイリターンが望めるがハイリスクの場合は現在の活動をそのまま続けようとする強い慣性が生まれるため。
  • 正当性の要求
    株主が「そのような業務のやり方に投資したのではない」と言ってきたり、顧客が「そんな文化の会社とは取引したくない」といった、外部から安定を求められるため。

なんとなくわかる気がしませんか?このような慣性が働く中で業務改革を進めるということが困難であるのは、ある意味当たり前なのです。

(続く)

出典

[1]厚生労働省:2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行されます!

[2]組織論 補訂版 (有斐閣アルマ),(2010).