業務改革には軍隊が捕虜を懐柔するテクニックを使おう

しばらく更新していなかったので、ちょっと脱線します。

「小さく始めるということは、コツコツとやれば結果が出るという努力の話でしょ?」と思われるかもしれません。たしかにそれもありますが、それよりもっと大切、というか逆に知らないと危険な面があります。

服従しないよう訓練された捕虜があっさり懐柔される

朝鮮戦争で捕虜になった米国兵が、なぜ中国に協力的になったかを調査した研究があります。米国兵は名前、階級、識別番号以外はなにも話さないように訓練されていたにもかかわらず、なぜでしょう?暴力的な制裁の賜物?いえいえ、違います。

1985年に出版されて以来、 30言語に翻訳された心理学のロングセラー、その世界の権威であるアリゾナ州立大学名誉教授チャルディーニ著の「影響力の武器」から恐ろしい一節を引用します。

たとえば、捕虜たちはしばしば、一見取るに足りないような反米的、あるいは共産主義的な意見(「アメリカ合衆国は完全ではない」「共産主義国では失業問題は存在しない」)を述べるように求められました。しかし、ひとたびこうしたもった小さな要求に従ってしまうと、次にはそれと関連した、しかしと本質的な要求にも応じなければならない羽目に陥ります。

中国人の尋問者相手にアメリカ合衆国は完全ではないと認めると、どう点でそう思うのかを指摘するよう求められます。それを説明すると、次は「アメリカの問題点」リストを作成し、そこにサインするように求められます。

次は、捕虜仲間との討論の場で、そのリストを読みあげるように言われます。「いいじゃないか。だってこれは、君が思っていることなんだろう?」と。さらにその後、自分の書いたリストを元にして、それらの問題点をもっと詳しく論じた作文を書くように求められるのです。

中国人はその人物の名前と作文を、彼がいる捕虜収容所だけでなく、北朝鮮にあるほかの捕虜収容所にも、さらに南朝鮮(注:原文ママ)に駐屯しているアメリカ軍にも送られている反米ラジオ放送のなかで紹介します。突然、彼は自分が利敵行為を行う「協力者」になってしまったと気がつきます。作文を書いたときに、脅迫も強制もなかったのはわかっているので、多くの場合、そうした状況に陥った人は、実際に行った行動や「協力者」という新しいレッテルと一貫するように自己イメージを変えてしまい、しばしば、もっと協力的な行動をとるようになりさえするのです。

シャインは次のように言っています。「協力を完全に拒絶できたのは、ほんの一握りの人だけだった。大多数の人びとは、本人たちにとってはささいな、そして中国側からすればうまく利用できるような行為を行うことで、しばしば協力をしたのである(中略)。この方法は、尋問の際、自白や自己批判や情報を引き出すのに非常に効果的であった」。

最初に小さな要求の飲ませ、それから関連するもっと大きな要求を通すというやりかたには「段階的要請法(フット・イン・ザ・ドア・テクニック)」という名前がついています。

これ、業務改革に利用できると思いませんか?上の例は戦争と捕虜の話でしたが、一部の慈善団体や特定の商法を行う人たちも使っています。なにも優越的な立場だから使える、というわけではありません。誰でも使えるのです。それも、特につけこみやすいタイプというのがあるのです。

知っているのと知らないのでは大違い

この話を出したのは、むしろこうしたテクニックを気づかないうちに使われていて、それが業務改革を阻害しているかもしれないからです。あなたにも使われているのかもしれませんよ。上司や旦那様や奥様によって。気を付けましょうね(笑)。

それはさておき、小さく始めることの意味が、単に積み上げによって成果を出すということだけではなく、人々の心に着実に食い込んでいって、あり得ないような承諾へ導くこともある、ということをお伝えしたかった次第です。まずは、小さい「要求」を飲ませてみませんか。

(補足)
フット・イン・ザ・ドア・テクニックの効果が実験によって確認されたのは1966年です。半世紀以上も前のことなので、現代では同じ実験環境で再現実験ができません。たぶん、再現性は永遠にわからないでしょう。それでも、周りをよく見てみてください。このテクニック至る所で効果的に使われていますよ・・・。

出展

[1] ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会 (翻訳) , 影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか, 誠信書房 (2014).

[2] Hans Radder, Causality, Theory Ladenness and Reproducibility in Experimental Science, Conference Paper,  (2015).