先行事例から学ぶ持続可能なテレワーク化の秘訣(1)

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、テレワークを実施する企業が増えてきました。

2020年3月から4月の一か月間で日本のテレワーク実施率は13.2%から27.9%と、14.7%も急増[1]。4人に1人はテレワークという状況になりました。

だれがテレワークを余儀なくされているのか

27.9%という数字を見てどう思いますか?多い?意外と少ない?それともそんなものという印象でしょうか?

人によってこの数字に対する印象はバラバラだと思います。その要因として、業種や職種によってテレワーク実施率が大きく異なることが挙げられます。2020年4月時点のテレワーク実施率を職種別にみてみましょう[1]。

トップのWEBクリエイティブ職が64.1%であるのに対し、ワーストの福祉系専門職は2.2%と、実に61.9%以上の開きがあります。グラフの右側にある、人と接する必要がある仕事(福祉、接客、理美容師、医療)や現場やモノにかかわる仕事(ドライバー、製造、建築、物流)は、テレワーク化がしづらいというのは理解できると思います。

ところで、新型コロナウイルス感染症以前のテレワーク状況はどうだったのでしょうか。2017年のテレワーク実施率を職種別にみてみましょう[2]。

順位こそ2020年4月と大差ないものの、2017年の左側のほうにいる営業、研究、技術職についてはおおよそ2倍に跳ね上がっています。2017年と2020年4月の双方で中位にいる事務職も、10.2%→23.2%と2倍になっています。

この比較からわかることは、今までテレワーク化が進んでいた(=テレワーク化できる)職種でテレワークを行っていなかった人たちが、テレワークを行うようになった、ということです。端的にいうと「同業他社と比べテレワーク化が遅れている」と嘆いていた人たちが、新型コロナウイルス感染症よってテレワークを余儀なくされている、ということになります。

なぜテレワークを行っていないのか

ところで、緊急事態宣言にも関わらずテレワークを行っていない理由は何でしょう?下図が理由のランキングです[1]。

トップは「テレワークで行える業務ではない」です。先述の2020年4月と2017年の職種別テレワーク実施率でほとんど変化がない職種は、運搬・輸送従事者(ドライバー)、製造(生産工程従事者)、保安(警備・清掃・ビル管理)、販売などです。このような人と接する必要がある仕事や、現場がある仕事はテレワーク化ができないのは納得できます。

注目すべきは2位「テレワーク制度が整備されていない」です。3位の19.9%「テレワークのためのICT環境が整備されていない」や、5位の12.8%「テレワークを行う場所がない」といった場所やハードに起因するものを大きく上回る38.9%が理由として挙げています。

IT機器を整えるだけじゃダメ

「テレワーク」で想起されるイメージといえば、たいていノートPCと電話です。Googleで「テレワーク」を画像検索すればわかる通り、ヘッドセットを付けてノートPCに向かっている人の画像ばかり出てきます。これこそがテレワークだといわんばかりです。

しかしIT機器をそろえればテレワーク化ができるかというとそうではありません。前述の通り、テレワークを行わない理由として、ハードの整備より制度を起因とした回答が上回っています。ランキングは、制度が重要ということを示しています。

では「制度」を整備すれば、晴れてテレワーク化が行えて業務が回るのでしょうか。

皆さんの大部分は、この2か月弱でテレワークを実施してきたと思います。緊急避難的かもしれませんが、社内にテレワークすべしという規定なり約束なりはもう既にできているはずです。この「制度」が「規定」を示すのであれば、とっくにうまくいっているでしょうし、持続的に業務は回るはずです。しかし、そう簡単にはいかないようだと皆さんはお気づきだと思います。

制度には、作られる過程で社員の共通認識、慣習、企業文化、暗黙知などが作用します。規定は表出された了解の一つに過ぎません。俗っぽい言い方ですが本当に役に立つ制度とするには、根底に広がる考え方をくみ取って反映させる必要があるのです。仏を作って魂を入れる、ということです。

ではいったいどうすればよいのでしょうか。次回は2014年から6年近く全社員テレワーク化(!)を行っているIT企業の経営者のインタビューをお伝えします。

(つづく)

出典

[1]パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」(2020年)

[2]国土交通省「平成29年度 テレワーク人口実態調査」(2017年)